DX推進が成功するかは、組織作りで決まる理由について説明
いよいよ経済産業省を筆頭にDXの呼びかけが実り、さまざまな企業でDX推進室の様な組織が立ち上がってきています。DX推進派のDENもこの先の日本がどう変わって行くのか凄く楽しみにしている今日この頃です。
しかしこのデジタルトランスフォーム(DX)という考え方は、インターネット文化やIOTとの関係が非常に密接であり、約30年前から研究が進められてきたのをご存知でしょうか?まずはDX登場の歴史について軽く触れておきます。
ユビキタスとIOTの登場と失敗
この研究の発端はまさにインターネットがオープンになる頃から進められており、当時から「全てのものがインターネットの様に繋がり連絡を取り合う」というコンピュータ同士がオープンに連携して社会インフラを支援するという研究(通称:TRONプロジェクト)が行われていました。この考えは、のちに「ユビキタス」と呼ばれるムーブメントを2010年以降の日本で起こすことになります。
同時期に出たIOT(実際の語源は1999年)というキーワードもかなり世界的に使われる様になりましたが、この「ユビキタス」や「IOT」は、ただの流行りの言葉だけに留まり、ビジネスチャンスを多く産まなかったと言われています。
※IOTというワードは、米国プロクター・アンド・ギャンブル社が社内幹部にRFID(電子タグ)の有用性を示す時に使った造語「internet of things」がはじめとされています。
ビジネス化につながらなかった理由は?
技術としては凄い進歩であり、日本だけでなく世界にユビキタスという革新を認知させただけでも偉業なのですが、ユビキタスは、社会にまだ取り込まれる事はありませんでした。もちろん日本のIOTも同じ状態だったと思います。
私も当時プラントで活用できるIOTセミナーに参加した記憶が有りますが、当時は全く利用価値が分からず、遠い未来の話かな〜という気分でしか聞いていませんでした。
それでも2015年頃に至る所で「IoT」に関するセミナーが行われていたにも関わらず、流行らなかった理由としては、以下4つあると感じています。
要因1.IOT利用者側の経済的メリットが伝わらない
IOTやDXの宿命かもしれませんが、例えば、社内でIOTやDXを推進すれば、その企業が儲かるのか?と質問されても、なかなかメリットを説明出来ません。なぜなら今はその便利さが無くても問題になっていないのです。
何も分からずただ便利そうというだけでは社内は愚か.誰も説得出来ず、システム導入の予算も取れないということになってしまいます。
要因2.社内にシステムエンジニアがそもそもいない
いわゆる人材不足が原因です。です。製造業あるあるかもしれませんが、システムエンジニアをこれまで外注契約で雇っている為に、システムのプロが社内におらず、何一つ検討が出来なかった。という事態になってしまいます。
要因3.オープン化を阻む幹部とデータセキュリティポリシー
DX化を図る際に、オンプレミス環境からクラウド環境に社内システムの移行が検討されるはずです。その時に問題になるのが、データセキュリティポリシーなどの会社のルールとそれを守ろうとする文化です。
DX化、IOT導入を進める際の最大の障壁と言ってもいいかもしれません。製造業界でのDX化がしづらいのは、まさにこの問題に必ず直面するからだと考えています。
製造業では当たり前ですが、製造している機械の設計図書や、設備資料、運転資料などはその会社のノウハウ、資産であるため、オープン化(クラウド環境での管理)に激しく抵抗する勢力があります(この抵抗が悪いと言うことでは無いので注意です)。又、企業の多くが情報セキュリティポリシー上の問題に当たるとして、クラウドサービスの利用や、社内文章のアップロードを禁止する傾向があるため、社内で上部幹部、管理職はクラウド利用を違反行為として捉えてしまう事になります。なので一向に話が前に進まない状態になるのです。
特に自社の技術流出やセキュリティを懸念するオンプレミス環境育ちの世代が企業の多数を占める場合は、データをクラウドで管理する事は困難なのかもしれません。
要因4.なくてはならない技術にまだ届いていなかった
IOTが活躍する場面とは、自分の所有物や設置場所を把握している物に対しては、いつでもどこにいても状態監視ができるというメリットがあります。
ただし、このメリットだけでは、「社員が効率よく仕事を行える様になるツール」でしかなく、費用対効果はなかなか見出せません。その為、積極的に導入しようと思う経営者は少なかったのです。
では何の技術が不足していたのか?
答えは、位置情報を人に伝える技術です。データベース上のリストでは、人には位置情報は伝わりません。仮想現実VRやMRによる視覚的な位置情報の伝達が必要です。
位置情報がどれほど重要か理解する為に、製造業のニーズから捉えていきます。
製造業が抱える問題は、「人員不足」と「ノウハウ伝承の消滅」です。例えば、新人起用した場合に、「どこに何があるのか」「その場所でどういう操作をするのか?」を1人で掴めるツールがもし有れば、新人教育の時間削減につながります。さらにその1つのツールを強化する事が「これを見れば何でも分かる」という意思が生まれ、組織内の技術標準化にも繋がるのです。この技術を応用すると、あらゆる作業が簡単に共有(オープン化)できる様になり、製造作業員の採用から教育まで自動化する事も出来る様になると考えます。
ではうまくDX推進をする為には?
ここからは中堅サラリーマンがDX推進を上手く進める為に必要なことについて述べておこうと思います。
DXの推進のリーダーは、会社のトップ(最高責任者)しかありえない
DX化を図ることは、将来の働き方を大きく変える事に繋がりますが、逆を言えば、今は何も成果を産まない行為となります。
その為リーダーが経営者でなければ、会社のDXの為の予算化はほぼ不可能です。何の利益を生まない事業に会社はお金を払わないのは当然ですね。
会社のトップだから当然と言えば当然ですが、会社組織の上下関係を飛び越えるマネージャーがいない限り、会社のトップがDX推進のマネージャーを担わなければ進められないと考えています。
仕様決定は現場の若いマネージャーが行うのが鉄則
これは私が感じた事になる為、主観が入っています。
DX推進の考え方は人によってかなり温度差があり、これを説明する為には、DXに対する保守派と推進派の考え方について、どう違うのか考える必要があると思います。
保守派と推進派でのDXの捉え方の違い
保守派
- 社内データベースの統一
- 社内管理ソフトの集約化
- 顧客情報の共有
- サービス満足度調査のフィードバック
- ペーパーレス化
- デスクトップPCからノートパソコンへの完全以降
- 現場でタブレット使用した管理
推進派
- 3Dマッピングによる完全リモート管理
- PC使用率の削減とスマホ、タブレット使用率の激増
- 製造機器の運転員を全て業務委託化し、運転員の人手不足を解消
- 社内システムのオンプレミス管理を最小限化し、クラウド環境化での管理に変更し、社内インフラ改造時の費用を減らす。
- 技術流出が可能な分野は、思い切って技術職員に関しても外注化を図る。
これらを踏まえるとDXへの捉え方は、保守派の方が組織の中では受けが良いです。推進派は、会社組織には受け入れ難いのです。さらに高年齢に行けば行くほど保守派の意見が出やすくなります。
でもその保守派の捉えるDXは、単なる業務改善でしかありません。
DXは業務改善ではなく、業務構造の変化であることを誤解しない様にする
DXの推進の目指す所は、業務構造変化を起こし、企業が一皮剥ける程度ではなく、骨格から変化させる様な改革をする事であると考えています。
その為、まだ会社組織に染まっていまない若い社員の知識がかなり重要だと認識しています。
トップダウン+ボトムアップでの推進体制を作るのは容易ではない
ここまで話すとトップダウンの体制を敷けば万事OKなように伝わるかもしれませんが、トップダウンの組織の中にも管理職は必要です。その組織がどう進むべきかをアドバイスする役割が必要不可欠であり、若手社員の意見をまとめてリーダーである最高責任者に連絡する役割がとても重要な役割となります。
ではその管理役をベテラン社員にすればいいんだ!と、安易に部長、課長職などの昇進戦争に勝ち上がってきた人をリーダーにしてしまう場合があるかと思います。
しかし、ここで1番注意しなければならない落とし穴があります。
よく陥りがちな過ちと思うのは、管理職又は年配者(40代〜50代)で組織し、仕様のみを若手社員に決めさせるような組織を作ってしまう場合です。当然その管理職の人が喜びそうな事を提案するばかりで、まともな意見は出てきません。若手で決めさせたとしても、必ず忖度されてしまい、上で述べた保守派の意見に偏ることになってしまいます。
このようにDX推進の組織メンバーの役職や年齢層は凄く重要な要素と言えます。リーダーはなるべく忖度のない組織運営に心掛けなければいけません。
保守派と推進派で意見の対立する際に、どちらを優先的に進めるかはリーダー次第です。
リーダーは日本人が苦手な地図(ビジョン)を描く必要があると考えます。
参考:坂村健 著書「IOTとは何か」