デンブログ コラム

激変するプロジェクトマネージメント体系のPMBOK第7版を分かりやすく解説

2021年にPMBOKが4年ぶりに更新されてもう数年が経ちました。第7版では、これまでの内容更新や差し替えということではなく、根底から全て差し替わる様な、内容変更が行われています。

では、PMBOKが7版でどのように変わったのか踏まえて、これからの製造業はどうあるべきかを考察してみたいと思います。

PMBOKとはなにか

PMBOKとは、一言で言うと「プロジェクトマネジメントの知識を体系化したもの」です。

PMBOKは、国際的に標準とされているプロジェクトマネジメントの知識体系(ガイド、手法、メソドロジー、ベストプラクティス)であり、建設、製造、ソフトウェア開発などを含む幅広いプロジェクトに適用できるプロジェクトマネジメントの基盤となります。

例えばあなたが、川に橋を駆けるというプロジェクトマネージャーに任命された場合、さまざまな戸惑いが出てくるかと思います。

  • 橋を架けるには、何のスキルがある人がどれだけ必要?
  • どんな橋を架けるのか?
  • いつまでに橋を架けるの?
  • 利害関係者とは、どのように同意を取るのがいいの?
  • 橋を架けるにはどれくらいの費用が必要か?
  • あらゆるリスクを想定できるのか?
  • どのようにそのプロジェクトを進めればよいのか?
  • 協力してもらう人をどうやって集めるか?

そういう悩みを「このように考えてプロジェクトを進めるべき」という知識体系がPMBOKなのです。

PMBOKの経歴

PMBOKの起源は、まず1987年に米国のPMI(Project Management Institute:PM協会)から発表されました。その目的は、広く適用できるプロジェクトマネジメントの情報や実践方法の文書化と標準化が狙いでした。

そして1996年に初版、2000年に第2版、2004年の大幅変更(第3版)が行われました。その後、2008年に第4版、2013年に第5版、2017年に第6版と更新が続き、2021年に最新の第7版が発行されています。

現在はPMBOKガイド第7版(2021年)となります。

PMBOKガイド第7版では、これまでのプロセスベースの考え方から大きく変わり、プロジェクトマネジメントの原理・原則についても掲載されています。

PMBOKの目的

PMBOKの目標は、「QCD(品質、費用、納期)」の管理です。 QCDの管理とは、「可能な限り高品質で、低コスト(予算厳守)で、予定通りの納期」という目的を掲げ、それを実現するために計画を立て、実行することです。PMBOKの目的は、プロジェクトの目的であり品質、費用、納期の3つを管理することがプロジェクトのルールであるのです。

  • 品質・・・成果物が要求を満たしているかを管理する。
  • 費用・・・プロジェクトを遂行するために必要なコストを管理する。
  • 納期・・・プロジェクトの成果物や成果を完成させる期限を守る。

成果物を納品し目的を果たしたプロジェクトが、「まだ予算が余っているから、プロジェクトの納期をもっと伸ばして別のことをしたい」と考えてしまう人がいますが、これは納期の管理を無視した行為であるため、あまり良いとはされません。

プロジェクトマネージャーは考えることが多く、大変な業務になることが多い

PMBOKは、このQCDの管理を成功させるための要素を、6版と7版で変えているのです。

6版と7版では何が変わるのか?

まず従来の6版の特徴を説明してから、7版の要点概要の説明に沿って相違点を説明します。

6版での要素

第6版のPMBOKは、「QCD(品質、費用、納期)」の管理をうまく行うには、2つの要素があるとされていました。

1つ目は、「5つのプロセス」と呼ばれる過程を確実に実行していくこと。

2つ目は、「10個の知識エリア」と呼ばれる知識を理解すること。

5つのプロセス全てに対して10つの知識体系があると考えてください。

※5プロセス×10知識エリア=50項目となりそうですが、1つ欠けているので全部で49個の項目に分かれています。

5つのプロセス(プロジェクトの順番に進行していくもの)

  1. Initiating | 立ち上げ
    プロジェクトの認可を得る段階です。プロジェクトの目的、目標、予算、成果を定義し、プロジェクト憲章の作成とステークホルダー(利害関係者)の特定を行います。
  2. Planning | 計画
    プロジェクトの具体的な計画を立てます。スコープを洗い出し、実行すべきタスクや要員を明確化します。
  3. Executing | 実行
    計画に基づいて人材や資源を調達し、タスクを進める段階です。
  4. Controlling | 監視コントロール
    進捗状況を確認し、計画内容と乖離があれば調整します。
  5. Closing | 終結
    プロセスが完了したことを確認します。また、整理したデータを今後のプロジェクトで活用できる形で保管します。

10個の知識エリア(5つのプロセス内で具体的に行うこと)

  1. Integration Management | 総合管理
    ➁~⑩の知識エリアを統合管理し、プロジェクトを進める
  2. Scope Management | スコープ管理
    作業内容と成果物の範囲を定め、プロジェクトの目標を定める
  3. Time Management | スケジュール管理
    ガントチャート等の工程表によりスケジュールを管理・調整する
  4. Cost Management | コスト管理
    予算・実費など、費用全体を管理する
  5. Quality Management | 品質管理
    成果物の品質を管理し、顧客のニーズを満たすものを決める
  6. Human Resource Management | 人的資源管理
    適材適所な人材配置や、物質的な資源を管理する
  7. Communication Management | コミュニケーション管理
    メンバー間でのコミュニケーションを円滑化し、問題が起きれば調停する
  8. Risk Management | リスク管理
    起きうるトラブルを予測し、対策を立てる
  9. Procurement Management | 調達管理
    調達の為の契約を管理し、選定や納品の進捗管理、検収を行う
  10. Stakeholders Management | ステークホルダー管理
    顧客、メンバーを含め、関係者間で重要な情報を管理・伝達する

3つのパート

6版には、上記の5つのプロセス、10の知識エリアに加えて、3つのパートが存在していました。

このパートは、全プロセスのすべての知識エリアで「何をもとに、何を使って。何を作成するのか」を3段階で決めて実行に移すこととされています。

  1. 入力
    設計書など
  2. ツール&実践
    入力をもとに成果物を作成
  3. 出力
    成果物

これらをマトリックス図に表すと下のように3次元的な図に表されます。

6版でのPMBOKの目的は、「QCD(品質、費用、納期)」を管理し、「可能な限り高品質で、決められた予算と決められた納期通りにプロジェクトを遂行」する事です。

その考え方は、初めの段階で決めた仕様を中心にプロジェクトを進めると言ったウォーターフォール型のプロジェクト進行となっています。6版では、具体的に「こういう場面ではこういうふうに取り組みなさい」といった手法の紹介も含まれていましたので、多くの会社でその手法を参考に社内標準を設定したのではないかと思います。

第6版までは、「プロジェクトは5つのプロセスを順番にこなしていき、各プロセスでこういうことを考え、実践していくことで上手くいくのです」という内容になっており、その流れを知る事が大切であるとプロマネを学ぶ読者は皆考えていました。

第7版の要素

第7版では、6版までのプロセスを重要視するのではなく、その原理原則に立ち返ってみることが大切であるとされています。そして、これまで重要としていた「5つのプロセス」と「10個の知識エリア」は姿を消して、代わりに「8個のパフォーマンス領域」と「12個の原理原則」に変わりました。

その為、これまでのPMBOKを知っている人からすると、えっ!?と思うかもしれません。

この変化は、プロジェクトのプロセス管理が不要となった訳ではなく、既にウォーターフォール型のプロジェクトでは対処できないプロセスが世の中多くなり、さまざまなプロジェクトに対応する様に作り変えた結果、この様な構成になったと考えられます。スポンサーから「プロジェクト進行しながら、よりよい成果物(目標)に変更していきたい」と依頼されても、初めに成果物が定まらないので、6版のPMBOKでは対応が難しかったのです。そこで7版では、プロジェクトに合わせてどの様にプロセスを進めるべきかを選択すべきと記載しています。

  • 予測型アプローチ・・・従来のウォーターフォール型の進め方。成果物の要求事項を最初に明確にしておき、設計書を作成する。フェーズごとに関係者の合意の得て、先のフェーズに進めるプロジェクト。
  • 適応型アプローチ・・・成果物の要求事項を段階的に確定させて成果物を作成する進め方。
    • 漸進型・・・機能単位で要求事項を確定させていき、少しづつ最終的な成果物に作り上げていく進め方。最終的な成果物は要求事項が確定しながら決定されるため、長期のプロジェクトでは市場の変化を反映しやすくリスクが少ない。
    • 反復型・・・要求事項の確定と作成を繰り返しながら、最終的な要求事項に近づけていく進め方。繰り返し失敗しながら進めていく方法。
    • アジャイル型・・・要求事項に順位付けを行い、優先順位が高い順に要求事項に対応することを繰り返す進め方。

このように進め方にも自由度を持たせて、あらゆるプロジェクトに対応した内容に変更しています。この進め方は次に説明する8個のパフォーマンス領域の中で説明されています。

8個のパフォーマンス領域

パフォーマンス領域と聞いて、「何それ?」と思うのが一般的かなと思います。

PMBOK 7版では、「プロジェクトの成果を効果的に提供するために不可欠な、関連する活動」をプロジェクト・パフォーマンス領域と呼ぶとされていますが、やはり分かりずらいですね。

プロジェクトにはステークホルダーと呼ばれる、すべての関係者とのコミュニケーションで進めていきます。そのコミュニケーション(=書類や成果物のやり取りも含む)で何をするかで区切ったものを「パフォーマンス領域」と解釈しています。(私の解釈です)

8個のパフォーマンス領域

  • デリバリー・・・スポンサーやユーザー(顧客)が成果物が価値をもたらすことができるようにする活動
  • 開発アプローチとライフサイクル・・・プロジェクトマネージャーとそのチームメンバーでプロジェクト活動の進め方を決める活動。予測型アプローチや適応型アプローチの選択を行う。また、成果物の提供(デリバリー)やその頻度(ケイデンス)を決める活動も行う。
  • 計画・・・チームメンバーや、スポンサーとプロジェクト予算や必要人材の管理を行う。ビジネスケース文章やプロジェクト憲章を作成し、スコープや工程、予算などを文章化する活動となる。
  • プロジェクト作業・・・具体的な作業内容や手順を決め、必要に応じてルールや作業環境を整備する活動。プロジェクトチーム内の作業効率が最大化となるように、人的資源や物的資源の獲得をする。また、コミュニケーションや変更の管理も行う。
  • 測定・・・プロジェクトの情報収集の活動。「予算と実コストの差異」や「工程進捗の推移」、「顧客の満足度」、「費用対効果」、「成果物の価値指標」などのプロジェクトの状態を分かりやすく表示する。
  • ステークホルダー・・・顧客から賛同を得て、各種協力をしてもらうための活動。協力的なステークホルダーとコミュニケーションや分析を行い、エンゲージメントを得るための活動である。
  • チーム・・・プロジェクトチームメンバーへの指導や育成を行い、プロジェクトチーム全体が目的に向かうようにするリーダーシップ活動。メンバーのモチベーション向上やチーム成長も促す対策が必要である。
  • 不確かさ・・・リスクを回避し、そのダメージを最小にするための活動。

プロジェクト活動のあらゆる場面で、この8個の領域のうちどれが当てはまっているかを考えて活動することが重要ということになります。

12個の原理原則

7版から新たに、原理原則と呼ばれる「〇〇とは~~とあるべきである」といった心得のようなものが登場しました。この原理原則は、プロジェクトマネージャのみにおける心得ではなく、プロジェクトチームメンバ全体も含めたものであることが注目されています。

「どうせプロマネの人だけ原理原則を知っていればいいんでしょ」

こんなことを言っていたら、プロジェクトメンバーとしてふさわしくない人であると言われてしまいますね。

12個の原理原則

  1. 価値
  2. 品質
  3. ステークホルダー
  4. 変革
  5. チーム
  6. リーダーシップ
  7. 複雑さ
  8. リスク
  9. システム思考
  10. テーラーリング
  11. スチュワードシップ
  12. 適用力と回復力

次のページ:7版で変更されたことのまとめ&これからのプロジェクトのあり方

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完全独学でWEBデザインを無謀にも挑戦している中年男。 工場勤務の会社員で3児の父。 チャレンジを忘れず、妻に怒られても心はおれず。 有益な情報を発信し、これを見ている人の為になればと思っています。
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