DXに取り組み始めた企業が多くなる中、製造現場で働く人にとって、これからどの様に自身の業務が変わっていくのかイメージするのは難しいかも知れません。もともとDXは、経営者への命題として打ち立てられた要素が大きい為、ITとは縁遠いと思われがちな製造現場では、どのようにDX推進に関わるべきか経営者から伝わっていないケースがほとんどだと思います。
「きっと経営層が考えてくれているはず」
こう思う現場で働く人がほとんどです。又は、「きっと経営者が何か考えてくれるから、あまり関係のないことだ。」と自分は無関係なんだと思っている従業員も多いかもしれません。
しかし、何も想定してなければ場合によっては取り残されるどころか居場所が失われる可能性もあります。これまでは職人技や現場ノウハウを磨けば仕事がある時代でした。しかし、共通のツールを使いこなせない等の非効率な仕事をしている人は、職場の省力化の対象になったり、効率化の障害物として、その職を失うこともあるかも知れません。
DXで製造現場はどう変わるか?
製造業のDXでどのようにビジネスモデルが変化するかのキーワードは「超効率化」「超省力化」です。これをきちんと理解しておく事が大切だと思います。
そしてその先にあるのが「管理の自由化(マネージメントシェアリング)」になります。
現場は超効率化を望んでいるが、経営者は超省力化をイメージしている
製造現場で働く人にとってデジタル技術の活用とは、自分の仕事が効率的になり、楽になると言うイメージを持っている人がほとんどだと思います。
しかし、DXの目的は何か?この目的を誤解してはいけません。
このDXの考えは、2004年にスウェーデンのウメオ大学教授により「ITの浸透が、人々の生活をあらゆる面でより良い方向に変化させること」という言葉で使われるようになりました。その考え方が、「みんな便利になると儲かるぞ!」とビジネス面でのメリットが大きいと認知され、先進国を中心に浸透していきました。そして我が国日本では、2018年に経済産業省から以下の定義でDXを推進すると公表しています。
「企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること」
んー!正直長いです。これを私なりに解釈すると
①企業はデジタル化を進めて顧客のニーズを調べなさい
②デジタル技術で顧客ニーズと政府のニーズを製造業に当てはめ続ける仕組みを作りなさい。
③その行為に障害となる業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土は全て無くして作り変えなさい。
この3つを進める企業活動を日本では「DX」と定義されています。
つまり、製造業が昔から大切にされていた働く人の技術向上や熟練者の育成などを目的にするものではなく、製造現場の環境をより良くするものでもありません。顧客のニーズにあった経営を目指すようにするのがDXの目的なのです。
その為、超省力化による人員削減を行い、コストカットを目指すDX推進が経営者によって行われる可能性は高いです。その際、現場では超効率化が行われることになる為、現場で働く人は仕事が楽になると喜ぶかも知れません。しかし、その後の人材カットを想定していないと職を失う事になります。
顧客のニーズに盲目になってはいけない
顧客のニーズとは何でしょうか?
答えは「手軽さ」です。
「手軽さ」とは、「安く得られるか」「いつでも得られるか」「早く得られるか」「どこでも得られるか」の4つしかありません。
イメージしやすいのが牛丼チェーンです。品質管理を向上させることで、品質やサービスを可能な限り省力化し、「いつでも」「安く」のサービスを提供し続けています。
一方で日本の製造業は、質を高めることに一生懸命になり、高級な牛丼屋になっています。その為、安く作れる海外勢にマウントを取られてしまっています。もはや、手軽さを完全に見失っていると言えます。
しかし、これには様々な理由がありますが、以下2つが大きく関係しています。
- スポンサー優先主義による一般消費者とのニーズ乖離
- 企業の責任は「気軽さ」でなく、「品質と安全性」である事の認識ずれ
一つは、顧客(スポンサー)のニーズと一般消費者のニーズが合っていないにもかかわらず、顧客側のニーズばかり優先せざるを得ないビジネスモデルによるもの。
又もう一つに、CSRなどの社会貢献度の期待値が、年々大きくなっているのが原因だと思います。この期待値とは、日本の製造業に対する「より安全に」「より高品質に」を求める構造です。品質を維持するだけでは、後発の商品に負けてしまうという意識を製造業には潜在的に植え付けられています。
DXで顧客を変える
大衆が望む顧客のニーズをきちんと把握するだけではなく、上流下流のニーズの乖離を把握できたので有れば、日本の製造業が目指すべきは「より下流の顧客を獲得すること」になります。そうすることで、上で述べたニーズの乖離の影響をなるべく受けずに営業ができるようになるのです。
そんな顧客をデジタル技術を用いて変えていく活動がまずは必要と考えています。そしてこの顧客変更に伴う理念の変更も必要です。
大量顧客を獲得する事がDXの目的といえる
顧客のニーズに合わせて製造行為が極めて精密にコントロールできるようになれば、その製品を顧客に合わせてカスタマイズする事ができる為、大衆向けの商品を作り出す事ができます。それができれば、販売ルートをこれまでよりももっと消費者の目に行き届くように変革すればよいのです。
小型化、低単価の商品にこだわる
製造業だけでなくあらゆるビジネスにおいて、低単価商品に重点をおいて営業するのは良くないとされています。それは、消費者は新しいものや、より品質の高いものを好むと言う考え方を持っている為です。さらに顧客が限定されている業界では、顧客から購入される機会が少ない為に、商品単価が高いものを販売せざるを得ない状況になっています。日本のものづくりは、この構造になっている為、より高品質のものを求めるごく少数の顧客向けの商品ばかりになってしまっています。
しかし、その考えとは異なり、一般消費者になればなるほど、ニーズは「高品質&高価格な限定品」ではなく「汎用的&低価格などこでも入手可能なもの」であると認識しなければなりません。
そのニーズに応える為にDXを推進するのです。
どこでも入手可能で汎用的且つ低価格なものをつくる為にデジタル技術を利用する
製造業が目指すのは、日本が高度経済成長期に行った一連の原料調達から販売(原料→生産・加工→集約・組立→物流→販売)までの行為を他社協力のもとデジタル技術を使って省力化を行い、可能な限りものの値段を低価格にすることを目標にしなければなりません。
当然ですが、これまでその仕事に関わっている人の作業をなくす事になる為、反対意見は相当出てくると思います。その反発を乗り切る為には経営者の強い意識が必要ですね。