もう畑違いではない、製造業にもクラウドサービスの利用を真剣に考えている時代になりました。
製造業でもクラウドサービスを利用する時代が到来してきています。社内のデジタル化推進派である私(石油化学プラント勤務)としても2019年からいよいよ無視できない状態になってきたと感じています。日本の基幹産業分野である、鉄鋼業や石油化学業に対しても、これまでの運転・管理体制の見直しがもとめられています。
2020年官民アクションプラン策定の影響
2020年7月に政府と民間の協力によりスマートプラントを目指す為のアクションプランが公開となりました。これまでは、従来の管理運転方式に大きな欠陥もないのに、デジタル化やIOTといった設備投資額の割にメリットが見出せなかった為、殆どの製造業(特に鉄鋼や石油化学業)は、否定的でした。しかし、このアクションプランが出たことによりこれまで否定的であった企業も「政府が進めるなら、、」という理由が明確になった事で、社内の設備投資決済が通りやすくなったはずです。
経済産業省のガイドライン(アーカイブは以下のURLよりアクセスして下さい)
https://www.meti.go.jp/press/2020/07/20200710009/20200710009.html
製造業のクラウドサービスがなぜ難しいとされるのか?
製造業の自動化が進んだ90年以降、日本では、インターネットの普及と共にその運転方式は、80年代頃に生まれた「分散型制御システム(略 DCS)」をより使いやすく再構築し、その完成度を高めていきました。
※この分散型制御システム(DCS)とは、センサーや駆動系のアナログ信号の入出力をコンピュータで行い、シーケンス機能をコンピュータでエミュレートする事でプロセスの自動化を行うシステムをいいます。その昔は、シーケンス回路などのハードを繋げるしか方法がなかった為、自由に制御システムを構築できるDCSはすごく革新的であったらしいです。
ただこの時に生まれた情報セキュリティという概念は、この分散型制御システム(DCS)には通用しませんでした。なぜなら分散型制御システム(DCS)の基盤やパソコンは、社内のネットワーク内にしか存在しないという隔離された状態でしか使えない状態にしてあったからです。完全に切り離しているからセキュリティは大丈夫だ!という事です。
この対応により、難無く情報セキュリティの問題を突破したものの、プロセス制御に関わるデータは外部ネットワークには繋いではいけないという思想が固まってしまいます。
現在では、プロセス制御に関わるDCS上のデータは工場の頭脳である為、従来の製造業ではそのDCS上のデータを守るために外部からのアクセスができない聖域化が通常計られています。
クラウドサービスの利用は、聖域ではない場所に脳を移植する事と同じ
製造業において運転プロセスの情報プロトコルは超超重要なのです。万が一システムエラーによりプロセス異常が発生した場合、最悪人命に関わる大きな事故に繋がる可能性もあります。なので、クラウドサービスの利用をためらっている製造業は多いのです。
これまで情報セキュリティについて問題に対応した従業員がいない為、製造業はまずシステムエンジニアの人材育成(確保)が急務となっています。
大半が情報セキュリティ対策の検討をした事がない従業員では、クラウド利用のリスクヘッジがしづらい
この問題を解決法としては、
- 専門家(システムエンジニア)を多く雇用し、対策を別途講じる。
- 社内の技術部門の判断により、プロセスへのリスクが少ない項目に絞り利用する。
①はある程度資本力が必要となる為、多くの場合②になると予想しています。
そもそもなぜクラウドサービスを利用したいのか?
上で述べた内容と矛盾していますが、製造業が今直面している問題は何かをまず知っておく必要があります。大きく分けると以下の2つです。
- 製造業で働く人材不足
- 団塊世代からのノウハウ伝承がなくなる。
この2つはもう既に表面化した問題であり、急いで対応しなければ企業価値や製品の品質が損なわれる事態になりかねません。根本的解決法として、
- 業務を第三者に外注委託できる環境にし、少ない従業員でまわせる様にする
- AIが従業員の代わりに判断し運転する
この2つの方法が有力視されています。これを実現させるためには、
- 従業員が説明せずとも第三者の委託先と情報共有ができる状態にしておく事
- 運転状態のあらゆるパラメータ採取とAI開発をすること
この問題を解決するには、運転管理システムや、保全管理システムの統合をはかり、一つのプラットフォーム上でデータ入出力を行う必要があります。
ただこの課題は、既存システム改造に止まらず、将来的に製造システムを支える基盤となるため、素人では判断出来ません。データサイエンスの組織やネットワーク技術者などのこれまで不要としていた人材でしか解決できないことになります。しかし、ほとんどの場合は、そんな人材を獲得できる資本力が無いので、外部委託や有料サービスに頼るしかありません。
クラウドサービスを利用する事でオンプレミス(自社サーバー上管理)より遥かに安く、検討が進められる
外部サービスを利用するしか問題解決の方法がない会社は、検討コストを社内で決済してもらう必要がありますので、当然安く早く着手出来る方法に頼らざるおえません。
サービスの開発コストやネットワーク構築費は、クラウドサービスをベースに開発されたものが多い為、オンプレミスに比べ、サービス費用が安くなっている傾向があります。おまけにオンプレミスで進める場合はサーバーや通信回線の増設などで少なくとも数百万の費用が必要となりますが、クラウドサービスを利用するとほぼその費用は不要になります。クラウドサービスの利用費用は価格変動制になる為、長期の利用ではかえって高額になるかもしれませんが、、、
ただでさえこの業務改善は、製造業の企業にとってなかなか予算が付きません。なので、安く検討出来るクラウドサービスのシステムは製造業にとって無視できない状態になっています。